神嶌さんからこの本の翻訳を提案されたとき私は少し意外に思いました。ビショップはニューラルネット系のコミュニティでは知られていましたが、まだディープラーニングがこれほどのものになるとは考えられていなかった時期で、神嶌さんはAI学会を中心に活動されていたので、そのスコープには入っていない本だと勝手に思っていました。今思えば神嶌さんの先見の明には恐れ入るばかりです。
この本の翻訳については、たくさんの人に連絡して推薦の言葉や翻訳を引き受けてもらうなどの根回しを最初にしました。その反応はいろいろで、こういう教科書は原文で読むべしという意見もありましたし、研究者が翻訳に労力を割くことに対してネガティブな意見もありました。
甘利先生からは、ビショップは研究者としては2流だがこの手のものを書くのはうまいという趣旨のコメントをもらいました。この「研究者としては2流だが」というのは、ずっと私の頭には残っていて、自分自身は甘利先生にこのビショップみたいな評価をもらいたくないと抗ってきた気がします。私はそのころ岩波本の執筆も並行して行っていて、この甘利先生の言葉は、単なる執筆者ではなく研究者としてやっていく意識を保つのに役にはたったかなと思います。実は甘利先生の2流認定は上位の評価で、並の人間にはその評価すらもらえないというのが正しかったわけですが。