toddler’s diary

以前は研究にあまり関係ない雑談・2023年4月から本を通じた自分の振り返りやってます

J. Jacod, A.N. Shiryaev "Limit Theorems for Stochastic Processes" Springer 1987

この本は電総研に入って2年目くらいに買った本で見計らいで来ていたものだと思います.さすがに当時の私にはハードルが高過ぎましたし,情報数理でもこの本を輪読するほど理論に興味を持っている人はあまりいませんでした.同期で入った新田さんはマルチンゲールとかの専門家だったのでもしかすると可能性はあったかもしれませんが,研究室が違っていたので産総研になって研究室がいっしょになるまではそれほど近い関係ではありませんでした.それでも複素ニューラルネットの初期に議論に参加させていただいて,私がまともに論文誌に発表した最初の研究は新田さんの論文に連名で入れていただいたものだと思います.

 

この本は表紙に近い扉の部分に絵画の転載があり,"Limit theorems..." という注記があります.それがどういう意図なのかはいまいちわかりませんが,自分の本にこういう気の利いた引用とかできるとちょっとかっこいいなとは思います.自分では気恥ずかしくてできる気がしませんが.

 

以前にも書いたように,小学校の時に名古屋の夏の宿題の冊子の表紙絵に選ばれましたが,私の絵はいわゆるヘタウマな絵で,同じクラスにはイラストとかがむちゃくちゃ上手な同級生がたくさんいました.自分はやることが何もかも雑なところはありますが,たぶん父親の教育の影響もある気がしています.子供のころから「時間をかければ誰でもできる.早くやるべし」というような主旨の教育をされたので,不器用だった私は急いで雑にやることを覚えました.急いで雑にやるというのは,たぶん入試とかでは有利で,東大とか入れたのもその要領のよさみたいなのが効いていて,本来の知力とかそういうのとはあまり関係ない気もします.ゆっくり丁寧にやることの大切さを学んだのはかなり後でした.もう雑に急いでやることが体に染みついてしまったので,いまさら修正するのは難しいかなと思っています.

 

 

N.N. Cencov "Statistical Decision Rules and Optimal Inference" AMS 1982

甘利研に入って初めて情報幾何というものがあることを知ったわけですが,勉強合宿とかで黒瀬さんとか中村佳正先生の難しい話を聞いている限りはほとんど理解できませんでした.甘利先生と議論されているやりとりを見ている状態は,まさに空中戦を地上から見てぽかんとしている感覚でした.それでも,甘利先生の言葉は学生にとってもなぜか理解できるという不思議さがあり,それは甘利先生がすごいのと,数学科と計数工学科の数学を語る言語の違いがあったのかなと思います.

 

チェンツォフのこの本は割と最近買ったものですが,甘利先生のシュプリンガーレクチャーノートよりも古くて,双対座標系とか情報幾何の基本概念が述べられています.ただし,ピタゴラスの定理とかはまだ知られていなかったようです.

 

私はEMアルゴリズムの幾何を調べるあたりから情報幾何の勉強を始めました.まだ大してわかっていなかった頃に栗田さんからだったと思いますが情報処理学会の会誌に解説記事を書きました.前にも書きましたが,その頃には甘利先生がすでに EM の幾何についてはかなり深くやられていて,私のやったことは世の中にはほとんど意味がありませんでした.

 

ただし,それでもその後いろいろなところで情報幾何の解説や講演をさせていただいたのは,そういうことにもめげずに細々と勉強をしてきたからだと思っています.情報幾何の次元縮約の話を思いついてから,途中ブランクはあったもののいまだにそのテーマに関わっていられるのも甘利研に所属するという縁があったからこそだと思います.

 

数理科学に解説を書いた後に,東北大・産総研連携ラボみたいなところでセミナーをしました.そのときにいたのが中村壮伸さんというパワフルな方で,いろいろ突っ込まれると自分の情報幾何への理解の浅さを思い知ってこの本を買った覚えがあります.そのときは岡田研出身の徳田さんとか,唐木田さんも参加されて楽しい仙台滞在でした.

 

中村さんとはその後彼の本業のパーシステントホモロジーの解析などでお世話になっており,いろいろとつながっているのだなあと感じます.

 

林俊克「Excel で学ぶテキストマイニング入門」オーム社 2002

この本は私の書棚にある Excel に関する唯一の本かもしれません.研究で Excel を使ったことは一度もありませんが,地質関係の方々だと,Excel で分析というような話はしょっちゅう聞きますし,ガチの Excel 使いの方に下手なことを言うとまずいという話もあるようです.どんな道具でも使い方を極めれば大丈夫だという話だと思います.ただ,Excel のすごわざが出てくる本というわけではなく,この本を読んで R や python で処理するということだって普通にできそうです.

 

この本で本格的に使うのは茶筅という形態素解析のソフトで,現在どうなっているかわかりませんが,私もテキストデータ解析で少し使ったことがあります.この当時はいろいろな形態素解析のソフトが開発されていて,奈良先端大とかがそのメッカだったような印象があります.前にも書いたように,このころはまだ計数にいた富岡さんの話とかでひたすら自然言語処理がNP問題みたいな認識だったので,まじめに自分の研究としてやろうという気はありませんでした.

 

この本ではデータダウンロードが web でダウンロードできるということで,オーム社のHPにアクセスするとちゃんとアクセスできます.ただ,こういう情報がいつまで残っているかというのが web と本の連携では危うい気がしていて,昔の本であれば何百年経っても価値は失われませんが,最近の情報というのは賞味期限が短いというのはちょっと心配になります.そんなことは誰も気にしていないのかもしれませんが.

 

 

M.I.Jordan, T.J.Sejnowski "Graphical Models: Foundations of Neural Computation" MIT Press 2001

この本は Neural computation に掲載された論文からの selected paper で作られた本で、Jacobs & Jordan の mixture of experts とか、Attias の independent factor analysis, Gharamani とかの Variational Bayes など、機械学習の歴史の中で重要な論文がたくさん入っており、自分自身の研究にもかかわりが深いものが多いです。Kappen の論文も載っていました。

 

何度も書いていますが、この頃の機械学習の研究はモデルも単純でいろいろなアイディアや理論計算がやりやすいよい時代でした。自分の研究人生としてはもはや終わりが見えている昨今ですが、90年代、世の中では機械学習がそれほど注目されていなかった時代に楽しく実りある幸せな研究人生だったと思います。今は何もかもが不自由で、純粋な気持ちで研究に向き合うことが難しい時代で、少しでも若い人たちの自由な研究環境を守りたいとは思うのですが、自分に力がなさ過ぎて無力感を感じます。

 

産総研の近いところだと、後藤さんや大西さんのように一大勢力を作って、上からのわけのわからない圧力に抵抗するという手はあると思うのですが、私に人望がなさすぎて人が集まらないので、ひたすら仙人あるいは地縛霊として見守ることしかできません。

 

 

岡田憲夫,キース.W. ハイブル,ニル.M. フレーザー,福島雅夫 「コンフリクトの数理 メタゲーム理論とその拡張」現代数学社 1988

昨年の同じ日付に本の整理のためのブログを開始してちょうど1年が経ちました.ほとんど欠かすことなく続けてきましたが,書き始めた当初はこんなにつづくとは思ってもいませんでした.読んでいただいている方も少ないとは思いますが,なんとなく遺言みたいなブログだと思われて心配してくださるかたもいらっしゃいました. まあまだまだ当分本は尽きることはないので,細々と続けていこうと思います.当初想定していた自分自身の振り返りについては記憶がかなりとんでしまっているのと,だいたい重要なことは書き尽くしたかなと思うので,もうかけることは少ないとは思います.

 

今日取り上げた本はメタゲームという枠組みで紛争のような問題を数理モデル化するという内容の本で,数式が少なくてメタゲームというアルゴリズム的な手法の解説なのでよくわからない点が多いです.

 

ただ,実際のキューバのミサイル危機とか琵琶湖の水資源開発とか実際の問題をモデル化していたりして,結構面白そうな内容なのに今は絶版で中古でしか手に入らないようでもったいない気もします.まあよほどのことがない限り,どのような本も絶版という段階を迎えるわけで,私の関わってきた本もそういう運命からは逃れられないと思います.

 

 

高木隆司「形の数理」朝倉書店 1992

電総研に入ってそれほど経っていないこの本を買ったと思いますが,自己組織化とかで形の形成のメカニズムに興味があったのだと思います.この本を見返すと,形の形成メカニズムのほか,形の記述とかいろいろな面白い話が載っています.

 

形の記述というと最近はパーシステントホモロジーなんかが注目されていて,平岡さんの学術領域だったりに顔を出させていただいたり,企業との共同研究なんかでも勉強していますが,それはそれで大変なので,この本にあるようないろいろなアプローチが本来は研究されるべきなのではないかと思います.

 

RWCの頃に上坂先生が参加されていた勉強会で確率的知識の獲得と利用ワークショップというような名前の集まりを定期的にやっていました.主力メンバーは大津さん,麻生さんなどで,それ以外にも今は大先生となられて活躍されている方々が結構参加されていました.伊庭さんとか,当時NECにいた竹内純一さんとかも常連メンバーでした.私はまだ駆け出しで末席で参加してべんきょうさせてもらっていた感じでした.そのいつかの会合で,上坂先生が曲線の記述をするのに曲線のフーリエ変換のような話をされていて,ちょっと記憶に残っていたのですが,この本を読むとその研究が紹介されていて当時のことを思い出しました.

 

JST CREST 日比チーム(編)「グレブナー道場」共立出版 2011

グレブナー基底にまつわる書籍や解説はほとんどがこの CREST メンバーによって書かれている印象です.というよりも私の持っている本がほぼその系統ということかもしれません.ただ,その路線だとほぼほぼ数学科の学生が学ぶ道筋になっていて,先が見えにくい長い道のりを一歩一歩進んでいく感じで先が見えません.まあそれがこの本のように「道場」ということなのかもしれません.全体を俯瞰した書き方をして読者を導くというようなことは数学科では邪道なのかもしれません.一方で,大数学者でも読者に寄り添った書き方をしてくださる先生もいて,そのあたりは何が違うのだろうと思うことはあります.

 

さて,話は全く変わりますが,高校生までは母親に髪を切ってもらっていました.子供の時の方が見た目にこだわっていたような気がしますが,ぱっつんぱっつんの坊ちゃん刈りでよく文句を言って怒られていました.今では1000円カットで十分というか,うっとうしくなければ別にどんな髪型でも気にしなくなりました.日野さんが一時期バリカンで自前で頭を刈っていましたが,面倒くさいのでそういう路線ともちょっと違うかなと思っています.1000円カットはほとんど会話なく済むので助かっていますが,まだそういうのが出てくる前は普通の床屋さんに行っていましたが,そういうところだと必ず会話が発生します.当たり障りのない会話をしてやりすごしますが,正直に言えばそういう当たり障りのない会話をするという状況がとても居心地の悪いものでした.