toddler’s diary

以前は研究にあまり関係ない雑談・2023年4月から本を通じた自分の振り返りやってます

志賀浩二「現代数学への招待 ー多様体とは何かー」岩波書店 1979

この本をいつ購入したか忘れてしまいましたが、手持ちのが 1988 年の 5 刷なので修士の時だったと思います。甘利研に入って、微分幾何周りの議論にまったくついていけず、入門的なこの本を手に取ったのではないかと想像します。

 

あとがきにも書かれているように、高校生でも理解できるように丁寧に書かれているので(実際にこれを理解できる高校生は少ないかもしれないですが)、理解自体はできました。ただし、多様体の定義やその後の場の話がさらっとし過ぎていて、志賀先生が本来ねらった意図まではなかなかくみとれませんでした。

 

そもそも多様体についてだけではなく、距離や位相、微分などの概念をちゃんとかみくだいて書く必要があるので紙面として足りなかったということでしょうか。

 

本にも書いてありますが、定義は簡単だけど奥深いというようなことは結構あって、しかもそういうものこそ本質的に重要だと思います。全く分野は違いますが、囲碁なんかもルールは恐ろしく単純なのにその奥深さは底知れないのと似ています。

 

自分自身ではそこから主に情報幾何に絞って勉強していったので、本来の多様体論の広がりというのはそれほど詳しくはありません。でも、双対構造や平坦性といった描像が現れるのは、まさに元の多様体の定義だけからは想像もできないような面白い構造が見られます。当初はリーマン空間を規定する最小単位が計量と接続ということも知りませんでしたし、それらをユークリッド空間とは違うものにすることでどのようなありがたみがあるかもわかりませんでした。さらに、情報幾何の場合はレビチビタ接続ではない接続を入れたりするわけなので、今思えばそのあたりが全くの初心者にも一般相対論とかを知っていて幾何学に詳しい人にもわかりにくい構造はしているかなと思います。

 

話が情報幾何にずれましたが、多様体の話が初学者にとって難しいのは、ふつう曲がった空間と聞いて思い浮かぶのがユークリッド空間に埋め込まれた構造だと思いますが、実際に多様体は埋め込みとは独立していろいろなものを定義しようとしているところに思考を鳴らすのが結構大変だと思います。