toddler’s diary

以前は研究にあまり関係ない雑談・2023年4月から本を通じた自分の振り返りやってます

加藤文元「宇宙と宇宙をつなぐ数学」角川書店 2019

宇宙際タイヒミュラー(IUT)理論を理解できているわけではないですが、このように新しい数学が生まれていく過程を見るのはわくわくします。圏論について書いたときに自分にはこの抽象性は不要かもというようなことを書いた気がしますが、圏論を含め新しい数学はどんどん先に進めるだけ進んでほしいという希望をもっています。これぞ人間の知性の極みという感じがします。

 

人間や生物が時間とともに発展的に進化し続けているかという問題は哲学的でなかなか難しい話だと思いますが、数学のような知性は過去から未来に確実に発展しています。世の中には三角関数を使わないから不要というような議論もあるようですが、それは知性の発展というものを否定するものだと思います。自分という狭い世界で使わないという価値基準でものごとを判断するのは、特に政治のような多くの人を絡めた議論には合わない考え方だと思います。

 

なお、この本はまだ完璧には読破できていませんし、全部読んでもIUT理論というのが理解できるというたぐいの本ではありません。全く新しい概念が出てくると、人間はなかなか理解できないというのはよくあります。このブログで扱った多くの本の中でも、私が個人的に面白いと思う本は、半分くらいの内容はだいたい聞いたことがあって、さらに知らない半分が埋め込まれているというような本です。

 

ただ、身近な例で言うと、例えば情報幾何なんかは全く知らない人でも、サイコロの目のような有限離散分布を例に挙げて説明すればそんなに難しい話ではないというように、簡単な例やすでに知られている定理とかを IUT 理論で証明できれば部分的にも内容が伝わるとは思うのですが、そんな単純な話ではないのかもしれません。

 

これまで扱ったエルゴード性とかも、すごく単純な系であればほとんど自明な話ですし、最初に誰もが知っている自明な例で始めてそこから段階的に難しく抽象化していくというのは入門書を名乗る本では是非取り入れてほしいことだと思います。