toddler’s diary

以前は研究にあまり関係ない雑談・2023年4月から本を通じた自分の振り返りやってます

中野藤生、服部眞澄「エルゴード性とは何か」丸善 1994

大学にいるときには触れることのなかったエルゴードという謎の言葉を知りたくてこの本を購入しましたが、正直全くわかりませんでした。タイトルにエルゴード性とは何かとなっているにも関わらず、エルゴード性とは何かについて書かれているのは2章からとなっていて、初学者には全く不向きな本でした。

 

情報理論とか、(単純な)マルコフ連鎖とかを扱っている人が「エルゴード的」というときは、ほとんどそこに深い意味は込められておらず、どの状態からどの状態に行く確率も0ではない極々普通の設定であることを意味して枕詞のように使うだけです。

 

ただ、いわゆるエルゴード仮説とかエルゴード理論と名付けられるほど研究要素のある部分は、少なくとも統計力学のような系やカオスとかが出てくる力学系においてだと思います。そこで、こういう本でも、上のような当たり前のエルゴードはすっ飛ばして、いきなり難しいところに持っていく傾向があると思います。

 

まあ本というのは必ずしも万人向けというわけではなく、この本もパリティ物理学コースで出されている本ですから、物理学の基本を身に着けている人、物理の例を出しても嫌がらない人(というよりそういう例が刺さる人)を対象にしているので、一回の数理工学研究者が読むようにはできていないのかもしれません。

 

その点、甘利先生のすごいところは、むちゃくちゃシンプルな例題を考え出して、その理論解析をすることで、より複雑な問題の本質をえぐり出すところだと思います。それに慣れていると、世の中にあふれる無駄な一般化や複雑化したものの解析とかをなんとか一掃したいという思いに駆られてしまいます。