toddler’s diary

以前は研究にあまり関係ない雑談・2023年4月から本を通じた自分の振り返りやってます

栗田多喜夫,日高章理「統計的パターン認識と判別分析」コロナ社 2019

私が電総研に入った年,栗田さんはカナダNRCに滞在されており,麻生さんは通産省に出向ということで,メンバーが少なめなスタートでした.

そんな中,私は,室長の大津さんのD論をまとめた電総研の研究報告を勉強して,ほとんど前提知識のなかった多変量解析について多くのことを知ることができました.

 

この本は大津さんや栗田さんを中心に構築された非線形多変量解析理論を軸に書かれた本です. この理論は数学的には非常に美しいのですが,私は若干不満があります.それは学習理論においては本質的な有限個のデータにおける推定精度についてはほとんど何も教えてくれないことです.ただし,逆に言えばほとんどの学習理論研究がそちらに向かっている中で,ある意味独自性のある仕事で,多くの人はあまり知らない話なので,もっと知られてもよいかなとは思います.

 

栗田さんとは冒頭に書いた理由で,最初にご挨拶したのは日本に戻られてからでした.栗田さんは本質を見通す力が鋭くて,ニューラルネットの自然勾配を使った学習アルゴリズムは相当早い時点で発表されており,たびたび甘利先生の解説とかにも出てきます.電総研から産総研になり,栗田さんは脳神経情報研究部門の副部門長として,まだ未熟な私をグループ長に抜擢してくださったり,産総研上層部が思い付きでいろいろ投げてくる理不尽なことから守ってくださる傘のような存在でした. 細かい事情はわかりませんが,広島大に移られてしまったのは産総研にとって大きな損失だったと思います.