toddler’s diary

以前は研究にあまり関係ない雑談・2023年4月から本を通じた自分の振り返りやってます

浦川肇「ラプラス作用素とネットワーク」裳華房 1996

カーネル本を書いていた時,多変量解析まわりはすでに知っている範囲の説明ができたましたが,ラプラシアン固有マップなど離散系とのつながりについては知識がかなり怪しいものでした.この本はそうした中勉強しようと思って買った本です.2008 年頃に買った本ですが第1版となっていて(刷は書かれていないだけで更新されていたのかもしれませんが)こういう本こそたくさん売れてほしいと思いました.浦川先生はこのほかにもいろいろと教科書を書かれていて,数学的な記述は保ちつつも私のようなレベルの読者にもわかりやすい書き方がされています.

 

この本の動機となったような離散系と連続系をつなぐという話は,室田先生の離散凸解析とかいろいろ試みがあって,離散と連続の共通性や違いなど興味深いネタがたくさんあるように思います.まだまだ開拓されていないような問題もたくさんあるような気もします.

 

さて,昨日は昔の情報数理のメンバーについて書きましたが,宮川さんや三島さんが最初に卒業されました.宮川さんは卒業されるときに情報数理の歴史についてお話されて,一時期は大津さんと宮川さんの二人だけになった時代があったということで,数理というのが電総研においても常に存亡の危機にさらされていることを知りました.その後私がグループ長をしている間なんとか取り潰しにならなくてよかったです.

 

三島さんは卒業されるときに,電総研はぬるま湯というようなメッセージを残されました.確かにそういう面はあって,それが電総研から産総研の長所でもあり短所でもあるところだと思います.研究者の自由度というのは何よりも大切で,その点では少なくとも当時は非常にすばらしい職場でした.一方で,研究における競争なんかは起きにくいのんびりした環境だったので,一刻を争うような研究には向いていないと思います.現在の日本全体,そして産総研のマネージメント層は競争力を高めるような研究所にしようとしている意図が見えますが,それをやる地盤が全然整っていないことが理解できていないように思います.