toddler’s diary

以前は研究にあまり関係ない雑談・2023年4月から本を通じた自分の振り返りやってます

伊理正夫,韓太舜「テンソル解析入門」教育出版 1973

当時の計数工学科には 解析・線形・代数・位相・確率・計算という6つの数理工学という授業があり,伊理先生か韓先生が線形数理工学の担当でした(以前韓先生が情報理論の講義をされたと書きましたが,このあたり記憶が不明瞭です).

 

伊理先生は小さい字でいっぱい板書され,それをひたすら写経するというスタイルで,一方甘利先生は,図とかを使って直感的に説明されるという対極的なスタイルでした.今となってはどっちがよいとか悪いとかはない気もしますが,伊理先生の授業は聞いているときには全然わかりませんでした.

 

さて,この本は線形数理工学の教科書だったと思います.今は機械学習の分野でテンソル分解とかで使われているのは単なる多次元配列の意味だと思いますが,当時の私もそういった理解で,授業で多次元配列でもテンソルであるものとテンソルでないものがあるという話を聞いて混乱しました.

 

幾何学というのは座標変換に不変な構造を調べる学問である」というのは今でも完全に理解できているわけではないですが,少なくともテンソルという考え方は座標変換を受けると,変換行列をかけることで移り変わっていくという美しい構造があるものということは情報幾何とかを勉強していくうちにやっとわかってきました. あと,反変・共変ベクトルというのも,やはり双対性というもののありがたさがわからない段階ではなんでこんなものを考えるのかよくわかっていませんでした.

 

この本を今になって読めば,そのあたりのことも書いてはあるのですが,初学者にとって必ずしもわかりやすい本ではないように思います.わかりやすい教科書に共通しているのは,動機づけや方向性がいたるところで示されることで迷子になりにくいということだと思います. この本に限らず,そういう配慮ができている本は非常に少ないように感じます.