この本はいろいろな意味で私を混乱させています.
著者の乾先生は川人・乾ペアとしてすごく有名で,阪口先生は計数の先輩ですし,岩波書店から出ているというのもほんの信頼性を増しています.
また,自由エネルギー原理というのが何やらものすごく流行っているらしく,統一理論みたいな壮大な話らしいという評判を聞いています.
ところが,実際この本を読んでみると,特に目新しいことは書いていないということです.普通の機械学習で研究されているベイズ関連の話をいくつかもってきているだけのようにも思えます.
別に怪しげな理論というわけではなく,一つ一つの議論はまっとうな論理に基づいてされているのでそこに文句はないのですが,「生命科学の大統一理論」という言い回しに関して過大な期待をしてしすぎたのかもしれません.
あと,David Marr も登場しますが,私が Marr について最も重要だと思うのは,脳の計算理論を3つのレベルに分割した点です.脳の計算理論と言われるものでわけがわからなくなりがちなのは,この3つのレベルを混ぜて議論してしまうことで,この本はそのトラップにはまってしまっています.
世の中,何か大統一理論みたいな大風呂敷で売りつけようというビジネスが横行していますが,それには大いに抵抗を感じます. 特に官僚とか宗教とかが,それを誤用したり悪用したりすることがあるので,発信者はそういうことに常に慎重になる必要があると思います.