以前に書いたように,卒論の指導教官は杉原厚吉先生になっていただきました.杉原先生の著作はどれも非常に読みやすく,作文に関する本も出されています.その根底にあるのはシンプルさにあって,レトリックに頼ったり,あえて凝った書き方をしたりということを配していることにあります.これは言うは易く行うは難しで,例えばこのブログのようにだらだらと頭に浮かんだものを書いていると冗長になってしまいます.ここから不要な表現は省く推敲を重ねないとなかなか杉原先生の書かれるような文章にはなりません.
もう一つは読者の目を引くために何かかっこいいことを書いてやろうというスケベ心が働いて余計な言葉を足したくなることを抑えることです.この本を読むと,そんなものに頼らなくても中身が面白ければ飽きることなく読める本が書けることがわかります.
まあ私が数理工学の出身だから,この本に書いているような内容が面白いと思うのは若干のバイアスが入っているかもしれません.私が卒論の頃,杉原先生はこの本にも出てくるロバストなボロノイ図を書くアルゴリズムの研究を熱心にされていました.
計算幾何学と情報幾何学を比較すると,計算幾何学は幾何学に対する計算で,情報幾何学は情報に対する幾何学ということで実は主体が違います.計算幾何学に若干の気持ち悪さを感じるのは,計算の部分が必ずしも体系だっていないように感じられるところで,もちろん劣モジュラや離散凸解析など体系立てようとする試みはあるものの,この本に書いてある範疇だとどうしてもパズルを解いているような発見的なものに見えてしまうところがあります.そこに研究者のセンスが問われたり面白さがあるのかもしれませんが,学問という観点で言えばもう少しシステム的なまとまりが欲しくなります.